ワキガ多汗症研究所……ワキガ・体臭・多汗 心と体の研究室

ワキガは文化が原因の“病気”

 


  ワキガに関する多くの解説書をみると、ワキガのにおいは、太古の昔は異性を魅きつけるよいにおいであったが、現代では風俗や習慣の変化から忌避されるようになった、と説明されています。

 ここで、素朴な疑問が出ます。では、いったい、現代のワキガ臭は発香臭として働いた太古の昔のにおいと同じであるのか、ということです。

 私は、その存在場所も量も大きく変化してはいるものの、腋窩からのにおいの信号としての性質は、そう変わっていないのではないか、と考えています。つまり、性的信号としてのアポクリン腺の構造や、その発臭メカニズムは、太古の昔と同様に働いていると思います。

 むしろ、それ以上に変化したのは、受け手の側の嗅覚のほうではないでしょうか。嗅覚の変化が、同じ性質のにおいを、性的興奮の受容器にまで伝達できないほどに衰えてしまったのではないか、と推論しています。すなわち、昔は性的輿奮の回路を通って、刺激が伝導していたのに、今は悪臭を感じさせる回路に錯綜されて伝えられてしまうのです。しかし、ワキガ体質の人でも愛する人のにおいは心地よく感ずるのはなぜでしょうか。

 これは、愛という感情が加わった時、嗅覚は太古の姿をとりもどして、においによる刺激が性的興奮の伝導回路を通って、大脳にまで伝わるからなのです。

 日本人の体形も、時代とともにずいぶん変わってきています。近年の傾向としては、身長も伸び、足も長くなってきており、顔の造形も変化してきています。そして、顔のなかでも、鼻はかなり変化しています。栄養状態や衛生状態がよくなったせいもありますが、現代の若者の鼻は、少しずつ高くなってきています。それにともなって、においを感じとる方法も、以前とは変わってきているのではないでしょうか。

 現代は、無味無臭の時代といわれ、ニンニクぬきのギョーザや、においのない納豆がブームになっているように、嗅覚の存在意義が大きく低下しているのです。

 同じ感覚のなかでも、美術や文学など、視覚に関係ある芸術や、音楽のように聴覚を働かす芸術は、文化が進歩するにつれて発達してきました。ところが、かつては食べ物をみつけたり、つがいの相手を魅きつける上で、たいへん重要な働きをしていた嗅覚だけが、今、まったく無視されているのです。においの芸術といわれる香水でさえ、においを隠すために使われているのが現状なのです。

 ワキガは、性的なにおいの発香臭であるのに、人間の文明の進歩にとり残されたが故に犠牲になったというべきかもしれません。ワキガが、もし病気であるとするなら、それはまさに、人間の文化がつくった「文化原病」なのです。

 


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